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Mathematica で生成した音楽作品,「6 Integers」

「私が数学用語を使って考えると Mathematica がそのアイディアを実装する方法を提供してくれるのです.」

2000年1月25日,シンシナティ大学音楽院のコンサートで,シンシナティ大学1年生のCarl McTagueが Mathematica によって生成した楽曲「6 Integers」が世界で初めて演奏されました.Mathematica によって計算されシンセサイザーを使ってピアノとマリンバの音色で演奏された「6 Integers」には暖かな拍手が送られ,観客の反応も上々でした.聴衆の中には「素晴らしい」と言った人もあります.作曲家からは「ポストミニマリズム」であり,アルゴリズム作曲の「魅力的な新たな方向」であるとの賛辞も聞かれました.McTagueが音楽的なインスピレーションの多くを1960年代のミニマリストの作曲家であるフィリップ・グラス(Philip Glass)やスティーヴ・ライヒ(Steve Reich)から受けていることを考えると,ポストミニマリズムあるというこの論評は特に相応しいものと言えるでしょう.

McTagueが作曲した「6 Integers」という曲は x2 + 1 + (p(x)) が式であるように)Mathematica の1つの式です. それは,アイン・ランド(Ayn Rand)の「水源(The Fountainhead)」の登場人物である建築家のHoward Roarkの「何物も,1つの中心的な概念によって作られたのでなければ,道理にもかなわなければ美しくもない.この中心的な概念があらゆる細部を決めるのだ」という言葉によって示された理想を求めています.McTagueによると「6 Integers」の(ピアノとマリンバの音色を除いた)あらゆる細部は.単純な「中心的な」式によって決まったもので,偶然も人間の手も関わっていません.曲全体が,その2重のバイナリ構造も含めて,基本的にモジュール部分と1から6までの整数からなっています.構成全体を通して1つの一貫したプロセスが5,292個の音と独立した4つのオーディオチャネルを使ってこの6つの整数を探究していきます.これは,HFIM(Hierarchical Functional Inheritance Model,階層関数的継承モデル)によって生成された初めての完全な曲です.

HFIMは,Carl McTagueがもう何年も使ってきた「非常に有望な数学的動機付けを持った作曲に対するアプローチ」の基礎であるとシンシナティ大学コンピュータ音楽センタースタジオディレクターのMara Helmuth氏は語っています.手作業で数年の間作曲を続けた後,McTagueは作曲の新システムである単純な数学パターンのインタラクションに基づいたシステムの探究に乗り出しました.彼は表と一見エンドレスに見える数字と置換の文字列を手作業で作成しました.「そのうち私はデジタルコンピュータが私の仕事に非常に役立つことに気付きました」と彼は語っています.McTagueはすでに3年間 Mathematica を使っていますが,「私が数学用語を使って考えると Mathematica がそのアイディアを実装する方法を提供してくれるので」 Mathematica を使って音楽的な仕事を行うのだと語っています.最初のころは余り進歩が見られませんでしが,やがてMcTagueは自分の作業を楽にするためにHFIMを開発しました.このHFIMについては,彼のWebサイトに掲載されている論文で説明されています.

HFIMはクリエイティブな仕事のための抽象的な計算モデルを提供し,McTagueが音楽構造を抽象的な数学用語で表現できるようにしてくれています.次に,コンピュータがこれらの式を単純で明示的な演奏の指定へと展開してくれます.Helmuth氏によると「アルゴリズム作曲の素晴らしいところのひとつは数学・科学的な概念を芸術・感覚の領域で経験できるようにしてくれ,科学者ではない人間の理解形態を増やしてくれる点」だそうです. 「6 Integers」の場合,Mathematica は曲の「式」を評価し莫大な数の階層構造を生成しました.生成された構造は記号的に「平坦化」され,命令の1つ1つが1音を表す「明示的な命令のリスト」になりました.次に,Perlのスクリプトがこれらの命令をシンセサイザーが理解できるバイナリ形式に変換しました.

Carl McTagueはそのWebサイトで自身を「意欲的な作曲家でバイオリニストでハッカーで数学者でミニマリストで科学者」と説明しています.McTagueはこれからシンシナティ大学の2年生になろうというところですが,地域的な賞や全国レベルの賞等も含め,すでに極めて目覚ましい業績を挙げています.彼は全額奨学生で,機械工学,数学,医学の3分野を専攻としており,加えてHelmuth氏の指導のもとに音楽の勉強も続けています.彼は高校時代にすでに医学部への入学を認められていましたが,まだ将来の進路は未定だそうです.彼の多様な興味の対象として,医学研究部門の探究,技術計算の世界,「これまたすごく面白い」数学等が挙げられます.

これらの中のどこに音楽が入るのかと尋ねられても「分からない」のだそうです.「多分,私のアイディアがどれだけよいものかということと大きく関係するのだと思います.正直なところ,私は私のアイディアを単純に適用したにすぎない「6 Integers」にすっかり圧倒されてしまいました」とMcTagueは語っています.彼は現在さらに多くのアイディアを持っています.彼は曲の複雑さを表現するためにより大胆な楽器編成で演奏した「6 Integers」の新たな録音をリリースしたばかりです.また,彼は現在,特別注文のオーディオソフトを使ってサンプルしたり生成したりした音を直接操作しようとしています.将来的には,彼は従来の楽譜を使った実験をしてみたいそうです.しかしこれは「シンセサイザーとの意思伝達の方が人間とのそれよりもずっと簡単」なので,非常に難しいそうです.

現時点では将来McTagueがアルゴリズム作曲をどこまで拡げていくのか分かりませんが,彼の選択肢に限りがないことは確かです.McTagueは「情報時代の夜明けは作曲家にとって非常にエキサイティングな時代です」と言っています.「これまでは,生演奏はお金がかかり,すぐに終ってしまい,潜在的な聴衆も極めて限られているということで,自分の作品の生演奏を行うということは大変な ことでした.しかし今日,私はデジタルコンピュータで1人で曲を作ることができます.そしてこれを永遠に世界中の聴衆に聴いてもらうことができます.これは本当に解放感を与えてくれます.」

6 Integers」はステレオのMP3ファイルとしてダウンロードすることができます. Carl McTagueと彼の音楽,思想,著作,その他の業績についてより詳しく知りたい方は,彼のWebサイトhttp://www.mctague.org/carlをご覧ください.

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