Wolfram SystemModeler 4日本語版,リリース

Wolfram Researchは,本年7月にモデリングおよびシミュレーションの完璧なツールである SystemModeler の新規バージョンであるバージョン4を発表いたしました.サポートされるモデリングライブラリが大きく広がり,モデルを他のシミュレーションツールへ標準的に配備する機能も加わり,Mathematica との統合もさらに強化されております.さらにこのたび,Wolfram Researchは SystemModeler 4のドキュメントおよびインタフェースが完全に日本語化されたバージョンをリリースしました.日本のユーザの皆様にとって,最先端のモデリング・シミュレーション技術がより身近なものになりました.

以下はWolframの研究開発部ディレクターのRoger GermundssonとWolfram MathCoreのCEOであるJan BrugårdによるWolfram SystemModeler 4の発表についてのブログポストです.


本日,Wolfram SystemModeler 4をリリースいたしました.

Wolfram SystemModeler Logo

SystemModeler 4ではサポートされるモデルライブラリを拡張し,新しい分野が新たに扱えるようにしました.また,ソフトウェアを学ぶことからモデルを開発,解析,配備することまでのすべてのワークフローを向上させました.

SystemModeler は驚くほど多様な分野で利用されています.その分野の多くはこれまでの組込みライブラリで十分サポートされていますが,通常モデルをゼロから構築する必要がある,全く新しい領域でも多く使用されています.

ほとんどのアプリケーションでは,既存のモデルライブラリによって生産性が劇的に高まります.しかし,よいライブラリを開発するのは大変なことです.モデリングが簡単に行えるようにするための最高の構造,どの程度詳しいものするか,他のコンポーネントとのインターフェース,どのコンポーネントを含ませるか,ドキュメント等,さまざまなことを考えなえればなりません.おそらく,開発が終了するまでに何回かライブラリをリファクタリングしなければならないでしょう.すでに検証され文書化されたライブラリのコンポーネントやインターフェースを再利用することは,開発や学習をスピードアップさせるだけではなく,品質の向上にもつながるのです.

そこで私たちは SystemModeler に組み込まれている広範なライブラリのコレクションをさらに大きくしました.例えば,多値論理標準のVHDLに従うデジタル回路のためのDigital,大規模なアナログ回路の効率的な近似モデリングのためのQuasiStationary,多相の電気機械のモデリングのためのFundamentalWaveを加えました.既存のライブラリも多くの点で向上しています.熱損失が捉えられるようにRotational(回転機構)Translational(並進機構)で熱ポートがサポートされるようになったのは,その一例です.

SystemModeler 4の新規ライブラリと更新ライブラリの例

その上,既存のモデルライブラリやこれからできるモデルライブラリすべてに簡単にアクセスできるようにするため,有料ライブラリと無料ライブラリのマーケットプレースである SystemModeler Library Storeを開設しました.Library Storeでは簡単にダウンロードして自動でインストールすることができます.さらに,このようなライブラリバンドルに対して新しい標準が受け入れられるようにModelica Associationと協力し,このシンプルなワークフローをより一般的に可能にしようとしています.ストアのライブラリはすべて SystemModeler 4で動作することが検証されています.今後も開発者とともに,皆様に新しいライブラリ,更新されたライブラリをお届けしていくつもりです.

SystemModeler Library Store

今Library Storeにはどのようなモデリングライブラリがあるでしょうか.いろいろな分野のものがあります.例えば,掘削機アームや航空管制で使われる油圧アクチュエータや油圧回路のためのHydraulic,区画モデルや経路モデル等の生化学系のためのBioChem,電池スタックや燃焼機関等の冷却回路のためのSmartCooling,電力市場,病気の伝播,物流等の社会技術モデルのためのSystemDynamics,ロボットの回転関節等の制約付きの2D機械系のためのPlanarMechanicsがあります.

SystemModeler Library Storeのライブラリの例

SystemModeler で扱われるモデリングライブラリとその分野は,さらに拡張されました.Library Storeには,利用できるライブラリを常に加えていく予定です.私たちは,オフロード機械のタイヤモデリング,化学反応器,疾患経路等のまだライブラリの存在しないさまざまな分野について,深い知識を持つ多数の研究開発グループと連絡を取り合ってきました.SystemModeler Library Storeは,そのような知識がライブラリになった場合に,すぐにその利用を可能にするマーケットプレースなのです.うまく設計されたモデルライブラリでアクセス可能になる分野に限りはありません.

組込みライブラリが増え,専用のLibrary Storeができたことで,SystemModeler はより強力なモデリングツールになりました.しかし,ライブラリの中身やソフトウェアの使い方はどうやって見付ければよいでしょうか.モデルの作成方法はどのように学べばよいでしょうか.このような質問に答えるために,SystemModeler 4では新しいドキュメントセンター(オンラインと製品内)ができました.

SystemModeler 4の新しいドキュメントセンター

ドキュメントセンターでは,製品やライブラリのドキュメントはすべて簡単にブラウズしたり検索したりできます.ドキュメントにはビデオやテキストのチュートリアルの他,より構造化されたライブラリページも含まれています.また,無料のオンライントレーニングコースWolframコミュニティの他の SystemModeler ユーザ,テクニカルサポート,テクニカルコンサルテーション等のリソースへのアクセスも提供しています.

ドキュメントは広範囲にわたって相互リンクされているので,あるコンポーネントを探したら,コネクタ,パラメータ,サブコンポーネントへのリンクもすぐに見付けられます.特に,そのコンポーネントを使った例題のリストへのリンクは便利です.シミュレーション可能なモデルには,そのモデルが使っているコンポーネントすべてへのリンクの他,SystemModeler のドキュメントからそのモデルのシミュレーションを直接実行する機能もあります.

SystemModeler 4ドキュメント:Inertia   SystemModeler 4ドキュメント:Tank System

ライブラリとその使い方について学ぶことは非常に簡単になりましたが,ライブラリがない場合はどうしたらよいでしょうか.SystemModeler は,Modelica言語を使ってはじめからモデリングを行うことをサポートするようにも設定されています.SystemModeler 3では,最も利用しやすいリソースとして,Michael Tiller氏のModelica bookをご紹介しましたが,最新の開発が進みこの本の情報が古くなってきました.すると偶然にもTiller氏から,その本をCreative Commons版にアップデートするのはどうだろうかという考えを聞かされました.その少し後,Tiller氏はKickstarterのプロジェクトを開始し,私たちは最初のゴールドスポンサーになりました.このプロジェクトは資金調達も順調に進み,最初のバージョンが今春リリースされました.この本「Modelica by Example」は,現在 SystemModeler にドキュメントセンターの一部として含まれています.この本はModelica言語について学びたい方に適したリソースです.

SystemModeler 4ドキュメント:Enumerations

モデルライブラリは SystemModeler でコンポーネントモデルを再利用および接続するためのものです.では,SystemModeler 以外の他のソフトウェアでモデルを再利用することはできるでしょうか.SystemModelerは,TCP/IPベースのAPIを使って呼び出すことのできるシミュレーション可能モデルのスタンドアロン実行ファイルを提供します.つまり,適切なAPI呼出しを使うことにより,モデルはほとんどのソフトウェアシステムに統合できるのです.

シミュレーション用のソフトウェアではこれをもっと簡単にして,プログラムなしにすることができます.このためにWolfram MathCoreも他のモデリング・シミュレーション企業も,FMI(Functional Mockup Interface)という業界標準の開発に努めてきました.この開発は,インターフェースを標準化することで,ユーザのプログラミングを必要とせずにモデルの交換が行えるようになる,という考えに基づいて行われるものです.つまり,これらのモデルを利用する補助的ツール(ソフトウェアモジュールとハードウェアモジュールの両方を統合するシステム統合ツールのようなものを含む)がある可能性があるということです.SystemModeler 4ではFMIエキスポートをサポートするようになりました.これは他の多数のソフトウェアですぐに使うことができ,今後さらにその数は増えていくものと思われます.

FMI標準

SystemModeler はそれだけで非常に強力なシステムですが,Mathematica と一緒に使うとさらにその用途は広がりますSystemModeler のほとんどのタスクに対するプログラム制御,モデルキャリブレーション,線形化,制御設計のサポート,世界最大のアルゴリズムとデータへのアクセス,インタラクティブなノートブッククラウドとの統合等が使えるようになります.

SystemModelerMathematica の統合は全体的に向上しているので,操作がより高速でスムーズに行えるようになっています.大きい変更点は,モデルがダイアグラムやアイコンを使って表示されるようになり,それを他の関数の入力としても使えるようになったという点です.

Mathematicaは他の関数の入力としてSystemModelerのモデルダイアグラムを受け入れます

上のプロットでは,モデルは自動的にコンパイルされシミュレーションされています.SystemModeler 4では,モデルのシミュレーションおよび可視化がリアルタイムで実行できるようになりました.また,スライダー,ジョイスティック等の入力コントロールを使って,リアルタイムでシミュレーションモデルを変化させたり,ゲージや他のリアルタイム可視化機能を使ってシミュレーションの状態を表示させたりすることもできます.バーチャルラボ用でも実際の製品用でも,安価な入力デバイスを使ってシステムのモックアップを簡単に構築し,システムに実際のもののように反応させることができるのです.

SystemModeler 4では入力デバイスが使えます

SystemModeler 4では,詳しいModelicaコードを書かなくても Mathematica の微分方程式から自動的にモデルが作成できるようになりました.インターフェースを持つモデルであるコンポーネントも作成できるようになったため,それらのコンポーネントを他のコンポーネントと接続させることもできます.このため Mathematica で主となるコンポーネントを導き,モデルの他の部分は SystemModeler に任せるということが簡単にできます.実際,Mathematica からプログラムでコンポーネント同士を接続することもでき,1つあるいは複数のコンポーネントを異なる破壊挙動のものに置き換える等,モデリングの他の可能性を簡単に調べることができます.

SystemModeler 4とMathematicaの統合

他のモデルからアルゴリズムで派生する,特に面白いタイプのモデルに制御系があります.上のリアルタイムシミュレーションでは,人間が入力コントロールデバイスでモデルを直接操作することができます.しかし多数の賢いシステムでは人間を必要とせず,車のクルーズコントロールや飛行機の自動操縦のように,測定値と内部モデルに基づいてモデルの入力を自動的に決定するコントローラを備えています.多くのシステム設計で重要な課題は,そのような制御アルゴリズムを導くことです.Mathematica には制御設計アルゴリズム一式が揃っており,バージョン9と10で新たな機能も多数加わっています.その例として,自動のPID調整,記述子のサポート,遅延非線形系があります.ですから,SystemModeler 4ではコントローラを設計し,対応するモデルコンポーネントを作成し,それをシステムの他の部分と接続し,完全な忠実度で閉ループ制御系のシミュレーションが実行できるのです.

以上は SystemModelerMathematica を一緒に使ってできる多数のことの中の一例に過ぎません.この他にも,モデル方程式の導出と検証,より高度なモデルの解析(感度解析,異なるサブシステムの性能や効率の一括測定の計算等),情報量の多い可視化,アニメーション,操作インターフェースの生成,学生,上司,顧客に設計を伝えるためのプレゼンテーション資料の作成等の使い方もあります.多くのユーザの方々はすでにこのような使い方をされていますし,私たちも SystemModeler の開発で幅広く使っています.

SystemModeler 4の新機能,例題,無料コース,評価版等についての情報は,SystemModelerWebサイトをご覧ください.

これは2014年7月23日にWolfram Blogに投稿されたものです.