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暗号研究者,Mathematicaを使ってIrish Young Scientist of the Yearに輝く

フラナリーはMathematicaを使ってRSAとCPの両方のアルゴリズムを実装し,両者のランタイムの比較分析を行いました.

1999年1月,セアラ・フラナリー(Sarah Flannery)はインターネットおよびその他の電子通信におけるデータ暗号化の高度に革命的で高速かつ安全な新しいアルゴリズムの開発によってIrish Young Scientist of the Yearに選ばれました.この賞の副賞は,見事な銀のトロフィー,1000アイルランドポンドの賞金,アイルランド代表としてEuropean Contest for Young Scientistsに出席するためのギ リシャのテサロニケへの1週間の旅でしたが,同時に世界中のメディアの注目も集まりました.主としてこのために,フラナリーは自分の経験について書いてみないかと誘われ,「In Code: A Mathematical Journey」が2000年の4月に出版されることになったのです.

フラナリーのプロジェクトは「暗号学 - 新たなアルゴリズム対RSA」という表題で,その才気煥発に数論を応用している点と暗号学をしっかり把握している点で,コンテストの審査員にも暗号学の専門家にも広く賞賛されました.このプロジェクトでフラナリーは自分が開発したCayley-Purser (CP)と呼ばれるアルゴリズムと1970年代にMITで開発されたRSA公開キー暗号システムとを比較しました.この比較で彼女は世に知られたRSAと比べてCPアルゴリズムの方がはるかに速くかつRSAと同じくらいに安全であることを示そうとしました.そしてその過程で「Mathematicaがいかに素晴らしくパワフルであるか」を発見しました.「(暗号化と復号化のために)Mathematicaを学ぶのは大変楽しいことでした.(中略)これがうまくいのを見るのは本当にわくわくしました」と彼女は書いています.

フラナリーはコーク工科大学(Cork Institute of Technology)の「Mathematical Excursions」という自分の父親が担当したコースでこのトピックに出会い,1997年の秋,高校1年のときに,暗号の科学を探究し始めました.科学の先生が,コンクールの参加者を探していて全国レベルのEsat Young Scientist & Technology Exhibitionがどんなに楽しく刺激にあふれているかをフラナリーに話して聞かせたところ,フラナリーは「ダブリンで5日間楽しむためだけにでも何かをやる価値があることは分かっていた」そうです.その頃フラナリーたちは彼女の父親のクラスで暗号学について学んでいました.フラナリーは「父がMathematicaという数学パッケージは最高だと絶賛している」のを聞いて,これはその「素晴らしいソフトウェア」で何ができるかを確かめるのに理想的な機会だろうと思いました.加えて,彼女はプログラミングが好きになるだろうとうすうす感じていたのだそうです.

フラナリーはその著書の中で暗号学の基礎について,またそのもとになっている数学と数論についての活発で包括的な議論を展開しています.本書はよく知られているあるいはあまり知られていない論理学と数学のパズルの提示と説明を通して読者を徐々に引き込んでいきます.読者は最初の数章を自分で解きながら読むこともできますし,この部分を迂回してフラナリーの暗号学プロジェクトとそれにかかわるたくさんの課題についての非常に興味をそそられる説明を読むこともできます.このプロジェクトのために,フラナリーは数論,必要な暗号学の知識,そして暗号学のスキームを実装し説明するためのMathematicaでのプログラミングのすべてを数ヶ月で学ばなければなりませんでした.さらに数論とこれを操作するためのコードのプログラミング方法を学ぶにつれて,彼女は暗号学には一般的な非常に大きな数字をMathematicaが「瞬きする間に」処理する様子に興奮しました.

1998年のEsat competitionでフラナリーは彼女の最初のプロジェクトの「Cryptography--The Science of Secrecy」に取り組み始め,このプロジェクトでいろいろな賞を得ましたが,わけてもIntel Excellence Awardを獲得しました.このプロジェクトで,フラナリーはダブリンに本拠地を置く暗号学の会社のBaltimore Technologiesで,会社の創設者であるMichael Purser氏の未発表の論文に掲載されている新たな公開キーとなる可能性のある暗号システムを研究するという仕事を与えられ,ここで働くという貴重な経験も得ることができました.フラナリーがPurser氏のアイディアを押し広げて行列の乗算という非可換な特性を利用した非対称アルゴリズムを開発できるのではないかと思ったのはこの仕事を通してでした.RSAのアルゴリズムは長さが200桁から500桁までの数とそれと同じ大きさの数のベキ剰余を必要とするのに対し,この新たなアルゴリズムはモジュラ乗算しか使わないのではるかに高速です.

その後数ヶ月間,フラナリーは新たなアルゴリズムを構築するために基本的な行列理論を学び,馴染みのないコンセプトの例題を生成するプログラムを書き,より多くの情報を求めて自分の父親に相談したり数多くの文献を参考にしたりするというタスクに取り組みました.数学的知識が深まりプログラミングのスキルが上達すると,「Mathematica言語の素晴らしい柔軟性」を示している他の人々のコードに感心させられ,より欠点が少なく高度なコードを書くことにしました.フラナリーは Mathematica を使ってRSAとCPの両方のアルゴリズムを実装し,両者のランタイムの比較分析を行いました.彼女の努力は,CPアルゴリズムがRSAアルゴリスムより20〜30倍速いことをうまく証明し,豊かな知識でCPアルゴリズムに対する批判にも抗弁できたことで報われました.これらすべてによって,フラナリーは1999年のEuropean Young Scientist Competitionに優勝し,同年にストックホルムで行われたノーベル賞授賞式に出席することができました.

フラナリーは,その並外れた業績を別にすると,自分が幅広い趣味と興味を持った比較的当たり前の少女であると思っています.彼女は最近Irish Leaving Certificate Examinations(大学入学資格試験)を終了し,1年間は休みをとって独学で数学の勉強に打ち込みたいと思っていますが,ゆくゆくは大学に進学したいと思っています.大学では数学とコンピュータ関係の勉強をする予定です.「私が天才ではないことは疑いありません」とフラナリーは言っています.しかし,幸運なことに彼女は「自分が興味を持つことができ,一所懸命取り組める」プロジェクトのトピックに出会いました.また,自分の父親が同時に指導者でもあったことも幸運でした.フラナリーの父は常に基本を学び,「ただ考え」,よく知らない問題やトピックに怖じけづかないようにと常に彼女を励ましました.

フラナリーの著書である「In Code: A Mathematical Journey」は現在英国で販売中です.翻訳の計画もあり,日本,韓国,中国,米国でも年内の発売が予定されています.これまでの評価は素晴らしいものばかりで,増刷が決定しています.この本はAmazon.co.ukブックストアからオンラインで注文することができます.

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