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時間の経過にともなって変化する可能性があるパラメータを時系列で判定し,移植臓器の損傷の可能性を推定する.
処方薬歴等の患者情報を表示するプログラムが簡単に作成できるので,医師はその患者に適した治療方法を選ぶことができる.
岩藤和広氏は東京女子医科大学で生物統計学を研究している医師です.岩藤氏は医学研究に20年以上Mathematicaを使っています.現在は,固形臓器移植を行った患者の生存率と危険因子の分析にMathematicaを利用しています.
Q:Mathematicaのことを初めて知ったのはいつですか.
A:初めてMathematicaのことを知ったのは,1989年に書店でMathematicaブックを見たときです.その頃私は,大学進学予備校で数学の代数,幾何,微積分等を教えていました.はじめはMathematicaブックは参考書に過ぎなかったのですが,実際には数学版の「はてしない物語」に他なりませんでした.その後私はノートパソコンを使って,独学でMathematicaを勉強し始めました.当時,大学入試の全国模試が定期的に行われていました.私はMathematicaを使って空間図形を描き,学生が視覚的に理解できるよう,問題の説明にその図形を添えて見せました.
Q:数学を教えるのにMathematicaを使われたのですか.
A:はい.数学の授業用のテキストを作るのにも使いました.手元の問題に必要な数値計算,記号計算の結果が素早く簡単に出ました.
Q:他にもMathematicaを使われましたか.
A:はい.医師国家試験のための予備校を創設しようとしているグループに加わりました.そのグループはプログラマーを探しており,私に打診がありました.私は引き受けたものの,はじめはどれだけのことができるか分かりませんでした.
Q:医師国家試験の予備校創設に貢献できましたか.
A:はい,もちろん.医学生用の模試をしたのですが,試験は多肢選択式なので簡単に結果をバイナリデータに変換することができました.私はMathematicaを使って,点数や順位だけを出すのではなく,それぞれの学生の弱点や強みも分析しようと思いました.Mathematicaで大きいプログラムを書くのは私にとって初めてのことだったのですが,バイナリデータと希望の出力を数学的に繋ぐだけで済み,プログラミング自体にはそれほど注意する必要はありませんでした.約8千人の受験者のマークシートを集め,Mathematicaで開発したプログラムで解析しました.個別評価を含む試験の結果を印刷し,日本中の受験者に配布しました.
Q:面白いお話ですね.先生は東京女子医大の外科医となられてからもMathematicaを使っていらっしゃいますか.
A:はい.でも実を言うと,最初外科医になったときは,もうMathematicaは必要ないと思っていたのです.実際にはその反対だったのですが.多くの患者さんの臨床転帰を分析するためには,電子ファイルのデータを扱うのにMathematicaは不可欠なツールになったのです.次から次へと仕事をこなすのに,Mathematicaなしではやっていけません.
Q:現在はどのようにMathematicaをお使いですか.
A:日本にはあまり多くの生物統計学者がいません.患者さんの記録を有効にお使いになっている先生も多くはありません.私はMathematicaをデータマイニングツールのように使っています.少しデータをソートすると,効率よい決断を下すのに役立つ情報を得ることができます.Mathematicaのグラフィックス機能を使うと,それぞれの患者さんの状態が一目で理解できる重要な図表が簡単に描画できます.
Q:その点について,もう少し詳しくお話いただけますか.
A:はい.体内の臓器はすべて,その中のさまざまなパラメータの恒常性を維持するのに貢献しています.移植された臓器はその人自身の臓器ほど安定していないので,時間の経過にともなって変化する可能性があるそれぞれのパラメータの時系列が臓器の損傷を検出するのに非常に重要になってきます.そのように鳥瞰的にデータをすぐに見ることは,肉眼では不可能に近いことなのですが,Mathematicaを使うと,これが簡単にできてしまうのです.
Q:どのように分析されたのですか.
A:病院の検査室からExcelファイルで5万人以上の患者さんの血液検査の結果を受け取りました.Mathematicaの組込み関数のImportを使うと,簡単にExcelファイルを実行可能なMathematicaファイルに変換してくれます.私は患者さんのID番号を入力するだけですべてのパラメータの折れ線グラフを描画する簡単なプログラムを書きました.それと同時に,手術,処方薬歴等の患者さんの情報も表示させるようにしました.それで過去何年も遡った患者さんの記録が,グラフや表で見られるようになったのです.Mathematicaがなかったら,患者さんの数ヶ月分の記録を遡ることしか,しかも一度の1つのパラメータを調べることしかできなかったでしょう.しかしMathematicaのおかげで,多数の患者さんの複数の結果を長期的視点から見ることさえできるのです.これでそれぞれの患者さんに合った治療が選べるのです.
Q:Mathematicaは,SASやSPSS等のソフトウェアとどこが違うとお考えですか.
A:Mathematicaとそのような既製の製品とでは,ソフトウェアのコンセプトとフレームワーク自体が全く違います.後者は完全なデータセットを使った標準の統計操作ならうまくできるでしょう.しかし,生物統計学で通常扱うデータは,不完全で散在した生のデータです.まずしなければならないのは,そのようなデータを,計算に使えるようなきれいに整列されたデータに処理することです.Mathematicaなら,このような操作を行う関数をほんの数行のコードで書くことができます.その関数を生のデータにインタラクティブに適用すると,所望のデータを得ることができます.次に,データ解析をするのに適した標準的な統計手段を選ばなければなりません.あるいは所望の評価が得られるような新しい統計手段を提案することもあります.後者はMathematicaのような式操作言語でのみ可能です.
Q:今後はMathematicaで何をしようとお考えですか.
A:医大によっては,先生にiPadを無料で支給しているところもあります.患者さんの医療記録がオンラインで入手できるので,Mathematicaを使うと,Wolfram|Alphaのように患者さんの検査結果や医療歴すべてをまとめた表やグラフを見せることが,iPadを数回タッチするだけで可能になると思います.これで医師は膨大な電子医療記録を扱わずに済みます.
Q:Mathematicaを一言で表していただけますか.
A:私たちは「木を見て森を見ず」ということになりがちですが,Mathematicaを使うと,森が見られるだけでなく,その重要な部分でさえ見ることができるのです.